『成瀬は天下を取りにいく』という小説を読んだ。
成瀬あかりという滋賀県大津市に住む少女を中心とした6つの短編/章からなる本だ。クスリと笑える軽やかな文章になっており、楽しんで読むことができた。
滋賀について
滋賀の立ち位置というのは、関西以外の人間には分かりづらいかもしれない。私も京都に住むまでは、滋賀が関西地方でどういうポジションなのかというのは知らなかった。
まず京都と滋賀がめちゃくちゃ近いということを知らない。京都駅から大津駅まで10kmくらいしか離れていない。横浜駅から川崎駅ぐらいの距離だ。
当然古都であり京阪神の一角をなす京都よりも滋賀のネームバリューは劣っている。しかし京都市よりも大津市や草津市の方が、暮らしやすいという話も聞く。京都市は財政難だったり、観光客で溢れていたりと、問題が山積みなのでそれはそうなのだろう。
このように滋賀についての解像度が以前よりも高くなっているおかげで、この本を楽しむことができた。
ありがとう西武大津店
「ありがとう西武大津店」という短編からこの本は始まる。
西武大津店は2020年に閉店したらしい。大津に西武があることすら知らなかった。世間がコロナで騒いでいる間に、こういう出来事があったらしい。
私の出身地である広島県呉市にはかつて「呉そごう」という百貨店があった。
Wikipediaを調べると「そごう呉店」となっている。調べてみると2002年に色々あって「そごう呉店」という名称に変わったらしい。そしてさらに色々あって、2013年に閉店したとのことだ。
呉そごうは物心がついた頃にはすでに存在していたので、古くからあるのかと思っていたが、調べてみると1990年に開店したらしい。西武大津店は1976年開店らしいので、それに比べると歴史が浅い。
個人的に特に思い入れはない。ありがとう呉そごう、とはならない。しかし西武大津店のように、呉そごうに思い入れのある人もいたかもしれない。
このように西武大津店が閉店したのはローカルな話題だが、同じような百貨店の閉店は日本中で起きている。
だからローカルな話題なのに、違う地方の人からも妙に共感を得るという小説になっているのだろう。しかしそれが、地方の嫌なところとか閉鎖的な雰囲気とかではなくて、妙に明るくて軽やかなものになっている。
それは近くに京都があって、暮らしやすく交通の便が良さそうな滋賀だからなのかなとも思った。あと琵琶湖がいいのかもしれない。山に囲まれてるとどうしても閉鎖的で鬱屈としてしまうが、琵琶湖を見ていると爽やかな気持ちになりそう。そういう滋賀のいいところが出ている小説だと思った。気軽に読めるのでおすすめです。