映画日記 哀れなるものたち
数年前までは、値上がりするものといえばタバコぐらいだったが、いまでは何でも値上がりしている。映画もいつの間にか2000円だ。
週末の午後8時、映画館で『哀れなるものたち』を見た。映画がハズレだったら残念だが、『哀れなるものたち』はアタリだった。
家のプロジェクターで映画を見ても途中で気が散って中断してしまうし、映画館で集中して見る体験はやっぱりいい。
哀れなるものたち
『哀れなるものたち』は科学や医療技術が現実とは違う形で発達してる19世紀〜20世紀初頭くらいのロンドンとその周辺が舞台だ。作中の衣装や内装を含めたスタイルが特徴的で、なかなか楽しい。スチームパンクが好きな人は好きかもしれない。
ロンドンに住む風変わりな天才外科医であるゴッドウィン・バクスター(ゴッド)が、ベラという女性を育てていて、ベラは体は大人なのだが知能や振る舞いは子どものようで、実はベラはゴッドによって死体から蘇生されてた人物で……というところから映画は始まる。
ゴッドは死体を拾って手術をする外科医ということで、有名なイギリスの外科医ジョン・ハンターを思い出させる。ゴッドはなによりも科学の進歩を重要視するキャラクターとして描かれる。
ベラは最初は子どものような喋り方しかできなかったのが、旅をして経験を積むことで、どんどん知能が高くなっていく。語彙も増えていき、いつのまにかインテリたちとカントの哲学についての会話をするほどになり、ゴッドのように科学や進歩を信奉する人物に変化する。
作中でベラが何度も経験的に empirical、という言葉を使っていた気がする。白紙の状態で生まれて経験によって知識が積み重なり人格が形成されていくベラは、経験論的な思想を体現したキャラクターなんだろう。
現代人から見ると素朴すぎる科学主義・進歩主義・経験論的なキャラクターたちがレトロな雰囲気を醸成していて楽しい。
超広角そしてクロースアップ
超広角レンズのショットがいくつもあって、それが印象的だった。この超広角が監督の好みというかスタイルでもある。映画の雰囲気をもあっているし、安っぽくなく、悪くないと思った。
望遠レンズのほうが歪みが少ない分、洗練された絵になる。あえて歪ませることで映画の奇妙さを作り出している。この奇妙さが、この映画のキモなんだろう。
特にクロースアップが多用されていた印象はないけど、オチの直前のヤギの顔のクロースアップは印象的だった。 ちょっとふざけただけかと思ったら、オチにつながっていた。 くすっと笑えるようなカット割りだった。
あとメトロポリスの有名なカットのオマージュがあったりして、他にも映画好きが喜ぶようなオマージュのシーンがたくさんあるらしい。というのをネットで見かけた。
女王陛下のお気に入り
『哀れなるものたち』がよかったので、同じ監督の一つ前の作品である『女王陛下のお気に入り』も見た。これもいい映画だった。こっちでも超広角ショットがあって、監督のスタイルなんだということを理解できた。
ちなみに『哀れなる者たち』も『女王陛下のお気に入り』もイギリスが舞台だが、監督のヨルゴス・ランティモスはイギリスではなくギリシャ出身だ。いわれてみると外国人が好きそうなイギリスを描いている気がしなくもない。